准教授 安岡 健一

Yasuoka Kenichi

専攻:日本近現代史・オーラルヒストリー

1979年神戸市生まれ。京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻博士後期課程研究指導認定退学。博士(農学)。飯田市歴史研究所研究員を経て、2015年10月に大阪大学大学院文学研究科(現人文学研究科)講師に着任。2017年4月より、現職。

研究紹介

私の近現代史研究には大きな柱が二つあります。

一つ目は、地域という場に即した研究です。とくに農業・農村の歴史は狭義の専門で、近年は農業協同組合に関連するメディアについて研究を進めています。日本社会の歩みを理解するとき、「農」について学ぶことは不可欠です。

二つ目が、方法としてのオーラルヒストリーです。今、聞いておかなければわからなくなってしまうこと、そして問いかけに対する応答に触れることで初めて気が付くことも少なくありません。人の話を聞いて記録するオーラルヒストリーは私にとって、歴史に向かう心を作り上げてくれた大切な方法です。この魅力的な方法そのものについて、調べ考えています。

これらをもとに、「戦後」という時代の叙述にも取り組んでいます。甚大な犠牲を生んだ戦争から80年以上が過ぎるなかで、世代間の認識ギャップも大きくなっています。そして、現在と地続きの戦後史には十分に研究が行われていない対象が沢山あります。時期区分を用いて長期にわたる総合的な視座の提示を試みたり、失われていく資料を保存し、その価値を発見したりすることも、歴史学の重要な役割だと考えます。マクロとミクロの往還を意識しながら、歴史研究に取り組んでいます。

地域での聞き取り入門講座(2026年2月)
吹田の浜屋敷という施設で地域住民に向けて聞き取りの報告をしたあとの座談会の様子(2022年9月)

メッセージ

学部生へ

大学の学部から大学院まで、農学部にいました。高校生の時には歴史にほぼ無関心で、サイエンス・フィクションが好きでした。
そんな自分が歴史に関心を抱いたきっかけは、大学の時に友人に誘われて参加した北海道へのツアーで、アイヌ民族の方の話を聞いた体験でした。
関西で生まれ育った自分が全く知らなかった歴史が問いかけられ、自分が「日本人」として当事者であることは大きな衝撃でした。

では「日本人」とは誰なのか? そんな素朴な問いに導かれ、さまざまな「他者」に出会い、自分自身を構成している要素としての「歴史」に向き合うことを決めて、もう20年以上がたちました。
飽きっぽい自分が全く飽きない、「今、ここ」につながる歴史は本当に奥深く魅力的です。ぜひ大学で、たくさんの人に出会って、探究したいことを見つけてください。

学生の皆さんが設定するテーマは私が全く未知のものも多く、教えるというより一緒に考える、という方が実態に近く、面白がりながらやっています。ぜひ、共に学んでいきましょう。

大学院生へ

「修士(博士前期)は迷ったら行く」で良いのでは、と言っています。
平均寿命は延びているのに学部の期間はあまりにも短いです。
膨大な量におよぶ研究蓄積と今の動向の把握、そして研究を通じた成長に要する時間を鑑みた場合、事情が許せばぜひ大学院に進学することをすすめます。

自分自身で作り上げた問いに、試行錯誤しながら取り組むことは、創造的で大いに意義のあることです。大学の枠をこえて専門家が集まる学会に参加し、そこで行われている「学知」が作り上げられる過程に迫ること。
それは今後どのような分野に進むにせよ良い経験になると思います。
おそらく想像よりも、学問の扱う方法や対象の選択肢ははるかに広く、多様なコミュニティがあると思います。身の回りで関心を共有する人がほとんどいなくても、世界まで目を広げればいることもあるものです。

これまで複数の社会人院生の指導にも関わってきました。進学を検討中の方は、出願前にお気軽にご相談ください。
(yasuoka.kenichi.hmt@osaka-u.ac.jp)。

出版書籍

安岡健一『戦後史 1945-2025:敗戦からコロナ後まで』

(中央公論新社、2025年)

「戦後80年」の節目を目指して刊行した通史の試みです。出版の前に、高校の「日本史探究」教科書の戦後にあたる部分を担当したことがあり、そこで抱いた問題意識も織り込み、「帝国と植民地」「都市と農村」「家族とジェンダー」という3つの視点を意識しながら書きました。当たり前に知っているようでいて、学ぶ機会の少ない現代史を皆さんと共に探究していきたいと思います。

安岡健一監修『コロナ禍の声を聞く:大学生とオーラルヒストリーの出会い』

(大阪大学出版会、2023年)

日本学の専門科目では毎年オーラルヒストリーに取り組んでいます。しかし、2020年にはコロナ禍で何もできなくなりそうでした。すべての授業がオンライン化するなか、世界各地のオーラルヒストリアンが目前の状況の聞き取りを始めているのを知り、授業の主題をコロナ禍そのものに設定しました。そこから数年、コロナ禍の大学を過ごした学生たちが主体になって、多くの人の語りに耳を傾け、本を作り上げました。聞き取りに興味がある学生の方に、ぜひ手に取ってほしい作品です。自分自身が歴史の一部であることを実感できるのではないかと思います。

『「他者」たちの農業史』

(京都大学学術出版会、2014年)

大学院時代を通じて取り組んだ、戦時から戦後直後の日本農村の研究です。「人の移動」に注目し、在日朝鮮人、疎開者、引揚者、海外移民といった人びとと農村とのかかわりをたどりました。固定的・閉鎖的ともイメージされる農村が、いかにダイナミックに変化していき、そのプロセスが戦争や帝国のあり方と深く結びついていたかを論じました。学生時代に影響を受けた「国民国家論」「総力戦体制論」への自分なりのレスポンスです。

櫻澤誠、河西秀哉編『物語で読み解く日本の近現代』

(ナカニシヤ出版、2026年)

研究会をともに続けてきた皆さんとの共著。初めて映画を論じました。取り上げたのは、今井正監督、水木洋子脚本の『キクとイサム』(大東映画、1959年)。ミックスルーツの子どもを主人公にしたこの作品について、舞台が山村で主人公の家が養蚕を営む零細農家である点にも着目し、「差別」をえがくことについて考えました。本作に限らず、1950-60年代の日本映画がけっこう好きです。自分の研究してみたい時代があれば、その時代のさまざまな文化表現にできる限りたくさん触れてみてくださいね。

『聞き書き 岡町・桜塚商店街』

(2025年)

出版社から刊行された市場で流通する書籍ではなく、専門課程の演習「文化交流史演習」(学部)「オーラルヒストリー演習」(大学院)の成果物です。大阪大学のある豊中市にある岡町地域の商店街で生きてこられた方へのオーラルヒストリーを実施し、その成果を聞き書き形式でまとめました。ZINE(ジン)に近いものがあるでしょうか?実際に自分たちで人に読まれる原稿を作るのがとても大切です。そして聞き取りは「慣れ」も大きいので、ぜひたくさん取り組んでほしいです。

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